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根気もまた、育てるもの

"やり抜く──つまり、その根気もまた、能力であるがゆえに、育てなければならないものです。"
(鈴木鎮一著「愛に生きる」(1966)より)

音楽を学ぶことには、どんな力が隠されているのでしょうか?


私は、今日ご紹介した鈴木鎮一先生の言葉が、その答えを導くヒントのひとつであると感じました。
何かを「やりたい!」という気持ちは子どもも大人も抱くことができますが、いざ始めてみると当初の憧れだけではモチベーションが上がらない場面もあります。

そんな時、
「三日坊主だから…」
「プロになるわけじゃないし…」
と、自分に言い聞かせてしまうことはありませんか?


何かを始める前は、具体的に、もしくはなんとなくでも「こうなれたら良いな」「楽しくできたら良いな」というイメージを持っているのではないでしょうか。
これを実現させるには、どうしたら良いでしょう?

レッスンのはじめは、簡単なことの繰り返しから能力の芽を育てています。
植物の種をイメージしてみてください。
芽生えるまでは種子の中は目には見えず傍目には何も変わっていないように見えるのですが、中では確かに生命活動が起こっており、その時々に必要な水や栄養を絶やさぬことで、ある日芽が出て、目に見えてすくすくと成長していきます。

楽器の習得で例えるならば、ご自宅でのおけいこは水、レッスンは栄養と言うことができるかもしれません。


成果がすぐには目に見えないからといって、水や栄養を与えることをやめてしまうことは、水面下で準備されてきた能力が芽吹く機会を遠ざけてしまっています。

根気も、楽器を弾く技術や課題に取り組む力、ある数式から答えを導く力と同様、生まれつきの優劣ではなく一人一人の中に育てることができる能力です。

何か一つでも「やってみたい」と思い立った物事を続けることができた、そこから何かが芽吹く瞬間を感じられたという経験を得ることは、自分自身を支える柱のひとつとなり、日常を生きることを豊かにしてくれます。

チェロを始めた生徒さんにとって、チェロを弾くことが自信を育てたり、将来自分の進みたい方向へ進んでいく「やり抜く力」をも培うきっかけになったなら、とても嬉しく思います。